2004年6月10日(木曜日)

試論:芸術としての経済(1)

カテゴリー: - artNOMAD @ 18時16分23秒

芸術と経済は無縁に感じますが、実は深いつながりがあります。
ここでいう芸術と経済の関係は、ピカソの絵が何十億で落札されたとか、そういう話ではありません。
経済とは「経世済民」からきた言葉で、「世を治め、民の苦しみを救う」という意味の言葉です。
現状はどうでしょうか?経済によって苦しめられている人も少なくはありません。
ここでは「モノの豊かさとしての経済」と「心の豊かさとしての芸術」のつながりを考え、芸術的な経済の可能性について探ってみましょう。

[生産と消費]
原始コミュニティー内の資源の共有、コミュニティー同士のマナの交換儀式/儀礼からはじまった経済は、物々交換、金本位制による等価交換、そして産業革命以降の資本主義経済から高度資本主義時代を経てきました。今日、社会主義を飲み込んでしまった資本主義経済はいまやその臨界点に達しています。今後、経済は新しいパラダイムに移行することになりますが、そこでは需要と供給、生産と消費という冷たい関係を超えたダイナミックな経済が生まれつつあります。それは、20年以上前にアルビントフラーが『第三の波』で予測した「プロシューマ」(プロデューサー=生産者とコンシューマ=消費者を融合させた造語)に端を発する、資本主義社会におけるコミュニティー経済の可能性です。そして、その扉を開いたものは、コンピューターという新産業、そしてUNIXというOSでした。ベル研究所が開発をはじめたUNIXは、独占禁止法によって、市販が許されていませんでした。しかし、UNIX配布の希望は多く、大学に対するソースコードの配布を無料で行った後に、ベル研究所が属するAT&Tによって、サポート、試用期間、保証、宣伝、バグフィックス無しという条件でライセンス配布が行われました。その製品としての不完全さを克服するために、UNIXの情報交換をするUSENIXというユーザー会議が発足されます。ユーザーが開発者という「プロシューマ」が誕生したのです。

*工業製品にこの思考を安易に取り入れることは決して良いことではありません。不完全な製品は命に関わる場合があるからです。

UNIXが広く使われるようになり、多くの企業が参加する/usr/group/というUNIX市場開発グループが結成されます。このグループはUNIX市場の拡大を目指し、関連企業も次々に立ち上がります。それらの製品は次第にコピーライト保持のため、ソースコードの改変を許可しないライセンスを持つようになります。ユーザー同士が、必要のため、あるいは楽しみのためにUSENIXコミュニティーにおいて自発的に開発/共有されていたプログラムも、企業の独占物に変わり始めました。また、UNIX開発者のケン・トンプソンはバークレイに客員教授として招かれたときに、学生たちとともに、BSDというオープンソースライセンスのUNIX拡張ディストリビューションを開発していました。UNIXとBSDのアプリケーションには互換性があり、BSDで開発されたアプリケーションも次々と企業の独占物になっていきます。アプリケーションの開発・改良を企業に依存しなくてはならないこと、また、需要の少ないものは市場の原則に従い、開発が凍結されてしまうことに危機感をもったMIT(マサチューセッツ工科大学)の研究員リチャード・ストールマン(Emacsの開発者)は、1983年にMITを去り、フリー・ソフトウェア−・ファウンデーション(FSF)というNPOを結成し、同時にGNUマニフェストを発表します。GNUはGnu’s Not Unix(ヌーはユニックスじゃない)ということだそうです。さらにGNU/GPL(GNU一般公衆利用許諾契約書)というコピーライセンスを考案し、ハッカーたちは、次々と自分の開発したソフトウェアーにこのライセンスを採用していきます。そして、この無料で自由なソフトウェア−が新しい経済を生み出すことになります。

*1994年にはAT&Tは独禁法の裁判により多くの子会社を失うと同時に、UNIX市販の権利を得ます。しかし、AT&TとBSD、FSFが醜い争いを起こすことはありませんでした。

1991年、ヘルシンキ大学に通うひとりの学生が、UNIXをベースに一から書き直したOSをインターネットで発表しました。それはかなりの反響をよび、世界各国のハッカーたちによる共同開発がはじまりました。GNU/GPLのOSが必要と考え開発中だったFSFはこのOSの開発者、リーナス・トーバルズにGNU/GPLの採用を依頼、リーナスは快く承諾しています。インターネットによるフリーソフトコミュニティの拡大に伴う開発速度とGNU/GPLの先進的な思想により、Linuxは1996年にはUNIXと同等の性能を持つまでになり、特にサーバーOSとして広く使用されるようになります。
ここで、Linuxの豊富な資源をもとに、ディストリビューターと呼ばれる新しい産業が発達します。多くのLinuxソフトウェアーの中から汎用性の高いものを選び、バイナリ−を作成して簡単にインストールできるようにしたものを、インターネットで無料公開すると同時に、CD-ROMで販売するサービスです。それはさらにLinuxの裾野を広げ、コミュニティーを活性化させ、市場(市場という表現はもう当てはまらないかもしれません)を作り出しています。独占と競争を原理とした生産と消費の経済を越えて、自由と共同を原理とした『創造と循環の経済=芸術としての経済』が始まろうとしています。

[創造と循環の経済]
GNU/GPLはコピーレフトという概念に沿って作成されています。それは
・創造物の使用、コピー、再配布、改変を制限しない
・改変したもの(派生物)の再配布を制限しない
・改変したもの(派生物)の使用、コピー、再配布、改変を制限してはならない
・コピー、再配布の際には、その後の使用と改変に制限が無いよう、全ての情報を含める必要がある(ソフトウェアではソースコードを含む)
・使用、コピー、再配布、改変のいずれにおいても、コピーまたは派生物にコピーレフトのライセンスを適用し、これを明記しなければならない。

*出展:ウィキペディア(GNU/FDLーGNUフリードキュメンテーションライセンスで作成されている百科事典)

リチャード・ストールマンの言説は社会主義思想と捉えられがちですが、平等であることよりも自由であることに主眼があり、マルクス主義とは発想の原点が全く違います。そして、社会にとって有益なものは独占されるべきではないという信念がそこにはあります。GNUの各種ライセンスは、独占を防止し、自由と共同の精神を広めることに重点を置いています。FSFも含まれる、NPO/NGOなどの団体は、社会に有益な社会事業活動を行っていて、その方法や活動を一部の団体が独占することは社会にとって不利益となります。たとえば、地雷撤去方法のコピーライトを誰かが主張したとしたらどうなるでしょう?そこではコピーレフトの概念が生かされるのです。そして、これら社会事業活動にこそ自由と共同を原理とした、新しい経済の可能性が内包されているのです。


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